DARK SOULSとTORCH TORCHのコラボレーション、「リングコレクション」シリーズの第7弾『スズメバチの指輪』の受注受付が始まっています。気づけばすでにひと月以上が経過……。他のアイテムが詰まりすぎて、作るほうで精いっぱいでした。お待たせしましたが、やっと筆を執ることができました。
この「スズメバチの指輪」。本編(一作目)では、大狼シフが守っていたアルトリウスのお墓の後ろにひっそりと置かれています。
アルトリウスと同じく薪の王グウィンに仕えた、四騎士の一人である「王の刃キアラン」に由来を持つ指輪であることはご存知の通り。アルトリウスに対するキアランの気持ちが仄めかされているかのようで、想像が広がります。
DLCで向かう過去の世界では、正気を失ったアルトリウスを倒すと、小さなお墓を作って彼を弔う彼女が登場します。
ああ。キアラン、キアラン……。
登場する場面はわずかですが、本当に心に残るキャラクターです。
この指輪は「致命攻撃力」を高める効果を持ち、装備するとパリィのあとの一撃や、バックスタブの威力が強化されます。NPC、闇霊や復讐霊ほか、敵対する“人間タイプの相手”に対してはモーションまで変わり、絶大な効果を発揮します。決まると気持ちいいですが、決められると精神的にもダメージが大きい。じっくりいたぶられるイメージです。
攻略にもPvPにも有用なので、この「スズメバチの指輪」を愛用する方は多く、商品化リクエストも多く頂いていました。「スズメバチ」だけでなく、「狼」「獅子」「鷹」の、四騎士の指輪が欲しいというご意見も多かったです。
こうして、スズメバチの指輪は「リングコレクション」シリーズに加わることとなりました。
元々の「ダークソウルIII」のゲーム中デザインです。「III」のインベントリ画面はアイテムのサイズが最も大きいので、立体化にあたってはこれをモチーフとしています。
並べて見ると、再現度の高さが伝わるかと思います。
あわせてお借りした資料には、古代ローマ時代の指輪や、インダス文明の指輪の写真がありました。いずれも金属の平面に沈み彫りがされたインタリオリングで、何千年も前の指輪がデザインソースの一部となっていたようです。いずれも今回の制作に大きく役立ちました。
原型制作は、これまで「貪欲な銀の蛇の指輪」、「生命の指輪」、「暗月の剣のペンダント」、そして「寵愛の指輪」を手掛けていただいた大畠雅人さん。どんなリクエストも即座に理解して造形できる素晴らしい原型師さんで、何でも安心してお任せすることができます。そして何より、ご自身も「ダークソウル」の大ファンです。
まずは、元デザインを平面化。ハチの彫りこみを取り出します。
スズメバチの指輪は一歩間違えると、「ピンズが輪っかにくっついているだけ」のような情けない代物になりかねません。このシンプルなデザインから、どれだけダークソウルの空気感が漂う立体物にできるのか? 今回の大きな課題でした。
左が叩き台として制作した最初期の原型。右がほぼ最終の原型です。
まず厚み・大きさといったボリューム感に目が行くと思いますが、こまかな造形の工夫がこの写真から伝わるでしょうか。
初期原型では、表面が均一にざらざらしています。
最終版ではフラットな部分と波打った部分、歪つな部分を意図的に作りました。
アウトラインは同じながら、まったく別の質感、まったく別の年代感になるようにと念を込めつつ……。
全体の質感は、指輪ではなくコインを独自に参考ソースとしました。
古代ヨーロッパのコインは現在の鋳造とは製法が異なり、過熱して柔らかくなった金属の塊を上下の型で挟み、上の型をハンマーで叩いて一枚一枚作っていたそうです。
※参考:Greek Coins – Ancient Greek Coins
そうしてできたコインは、当然一枚一枚異なるものとなります。貨幣の製造というよりは、まるで民芸品のようにも思えますね。
そんな古代コインの特徴を――側面が特にわかりやすいですが――取り入れることで、「古代感」を強く醸し出すことができたと思います。
さらに、古代のコインは下図のような工法を用いていたので、外周に盛り上がりができます。(赤い矢印の部分)
画像は Greek Coins – Ancient Greek Coins より |
この外周の盛り上がりは、古い鋳造法ならではの雰囲気を漂わせるのに効果的なディテールです。
ゲーム内イラストの一部 |
「スズメバチの指輪」元イラストにも、その表現が描写されています。
造形にも反映したところ、とてもリアルな風合いが出ました。
「ダークソウル」はファンタジーなので、登場する指輪の製法を考証するというのは無理だったり野暮だったりします。しかし、このように実際に存在するディテールを造形に盛り込むことで、説得力と存在感を強めることができました。
それから、中央を微妙に膨らませると一気に雰囲気が良くなるというのは、「寵愛の指輪」でも取り入れた手法です。「エイリアン/ ビッグチャップ・リング」でご一緒した、JAP工房さんからアドバイスをいただきました。
原型の修正リクエストの一部をお見せします。
このように、細かな修正を重ねて理想の形状に近づけていきました。こんなシンプルな指輪ですが、シンプルなだけにシンプルに見えない工夫を随所に凝らしてあります。
繰り返しになりますが、大畠さんになにかリクエストすると、すべて一発で、お願いしたとおりに修正版が返ってくるのです。これはとても凄いことで、理解できたところで確かな造形力がないと、こうはことが進みません。
こうして大畠さんの手により、素晴らしい原形が完成しました。上の写真が鋳造サンプルです。今年の夏のワンフェスでは、この状態で展示させていただきました。
造形は上々。しかし、気付いていたことがありました。
茶色くない…………!
ゲーム中のイラストでは、スズメバチの指輪は茶色。
これは、なんの金属でしょう。
真鍮でも銅でもなく……なにかの合金でしょうか。今でもわかりません。
身に着けることを考えると、やはりシルバー925でいきたいところ。しかし、シルバーで茶色というのは不可能です。燻しても銀と黒の間しか色の表現ができません。
さて、どうするのか。
この部分は本当に時間がかかりました。
燻しては磨いてまた燻し、丁度いい塗料を探し、何か月もずっと弄り倒してくれた橘高くんに感謝です。
フィギュアを制作してきたからこその、模型の手法をアクセサリーに取り入れました。
外周は燻しでグラデーションを作り、うっすらとかかった茶色みは彩色です。さすがにがりがり硬いもので引っ掻くと銀色が露出する点にはご注意いただき、またご容赦ください。
量産品で同じことができるメーカーはいないと断言できるほどに工程が多く、なによりテクニックが必要ですので、いずれ工程をお見せしてしまおうかなどと考えています。狼の指輪のタイミングでしょうか?
この「リングコレクション」は、形ができても色合いに毎度苦労があります。「寵愛の指輪」でもその点に触れましたが、この「スズメバチ」の比ではありませんでした。それこそ、ギブアップが頭をよぎるほどに……。(そのかわり、「狼の指輪」はめちゃくちゃ楽でした)
かくしてこの「スズメバチの指輪」、間違いなくシリーズ最高の自信作となりました。ダークソウルの空気感が格別に漂う一品です。
ご予約はこちらからどうぞ。
http://www.torchtorch.jp/darksouls/hornet_ring.html
11月30日~12月2日に幕張メッセで開催される「東京コミコン」では、豆魚雷ブースでTORCH TORCHの展示を行います。
「スズメバチ」、そして「狼」も現物を展示しますので、ぜひご来場の際はお立ち寄りください。
それでは!
Harada
Dark Souls™ & ©BANDAI NAMCO Entertainment Inc. / ©FromSoftware, Inc.