TORCH TORCHリングコレクションシリーズの第9弾「緑花の指輪」の予約受付が随分前から始まっています。
他の企画が進行していたこともありますが、なによりこの「緑花の指輪」をより良いものにすることに力を注いでいました。
作り始めなければ完成しないと思いました。なんとかなるだけの土壌はととのった、気がする。やってみようかな……。
そこで、一度はあきらめた開発を再開することにしました。
花びらの緑色は、ペリドットという宝石ではないかと思いました。
エポキシ樹脂とかカラーレジンは使いたくないです。本当のダークソウルの世界にはそんなものは無いし。でもペリドットならありそうなので大丈夫。(そもそも本当のダークソウルの世界とは?)
そこで(お見せできないのが申し訳ないですが)「ダークソウル」のデザイン開発用の資料を見せていただくと、確かに花びらの部分は塗装などではなく、透き通った緑色の宝石であることが確定しました。具体的な宝石の名前の記載はありませんが、やはりペリドットがベストだと判断しました。
真ん中のローズカットの丸い石は、どうにかなりそうですね。丸いし。
問題なのがはじっこで、尖っていたり丸かったり……。この再現は現実的でないので、花びらに使用する石は全て同じ仕様とすることに決めました。そのぶん石枠の形状で変化を出します。
石は特注で磨り出すとコストが割高になり、商品価格に大きく影響します。まずは規格サイズで似たものがないか探しました。
一番近かったのが、この5ミリ×3ミリのペアカボションです。使ったらどんな形になるのか、念のためシミュレーションしてみました。
石のサイズは0.5ミリ刻みで指定します。その中で最も現実的で丁度良い大きさを探ると、上の図のようになりました。花びらの直径は21ミリでいい感じ。縦幅4.5ミリ、横幅2ミリの涙型の石が良さそうです。
コストを抑えるため、規格品に手を加えるのはどうだろう? という工房からの提案がありました。マーキスカットという両端がとがった石が規格品で存在するので、
これの片側を削ると涙型になり、コストを抑えられるのではないかという作戦です。
やってみたのですがうーん、なんだかいまいち……。
試作に使用して黒く汚れた状態の写真しか残ってなかったのですが、こんな感じ。山が高すぎるし、なめらかにしないと雰囲気が出ません。
やはりペリドットは特注の磨り出しをしないといけないことが判明。うーん、仕方ない……。
……。
(時間の経過)
工房が見つけた石問屋さんとの交渉で、最終的には規格品とほぼ同等の価格で石を磨ってもらえることになりました!
詳細は書けませんが、なにか必殺技を出したような感じで想像していただければ。
なにしろ石の件はクリアです。どうにかなるもんだなあ! パートナーの皆様に支えられてものづくりをしております……。
原型制作は、リングコレクションシリーズの大半を手掛けていただいている大畠雅人さんにお願いします。微妙なニュアンスも見事に作ってくれる原型師さんで、絶大な信頼を置いています。
まずは構造のラフを作成しました。
最初に書いたのが上のものです。この図をもとに工房に相談すると、「作ってみないとわからないので、とりあえずやってみよう」って言ってるし……。
進むしかないのでまあまあ詳細めな仕様書を作成します。
ニュアンスはいったん置いておいて、大まかな形だけ大畠さんに出してもらいました。
一発目でこれがあがってくるので、マジの天才だな!
小さな花のついているリングの横側は、詳細なディテールが描かれていないのでわかりません。
話し合って、まずは「生命の指輪」と似たアプローチの造形にしてみました。何もない状態でどうなっているのか聞くよりも、仮でもいいので作ったほうが監修側(=フロム・ソフトウェアさん)の負担を軽くできます。
「横のディテールを見て下さい」とお願いすると、「横はそれでいいですが、上部の花びらの並びを元のイラストに合わせて、歪ませたり不ぞろいにできたらお願いします」という回答が。そ、そこにはまだ手をつけていなかったのですが、横は大丈夫と。良かった。
大畠さんに伝えると、見事に歪ませてくれました。花びらと花びらに段差もつけてくれました。しみじみ天才ですね。
そんな感じで何度か微調整して、原型監修はわりとすんなりと通ったのでした。そう、原型監修までは……。
これは、今年のあたまくらいに撮影されたテスト鋳造品の写真です。
形としてはまあ、できています。リングの横にある花が金色でなくシルバーなのがわかるでしょうか? あくまでテストなので真鍮でなくシルバーで、リングとは別パーツでなく一体になっています。
このテスト鋳造、ぱっと見は良いのですが粗だらけ。
数ある問題のうち、もっとも大きいのが石のフィッティングでした。
3Dプリントで出力された原型(オス)からゴム型(メス)を作り、そのゴム型にワックスを流してワックス型(オス)を作り、そのワックス型でツリーを作り、そのツリーを石膏に埋めて石膏型(メス)を作ります。ワックスは加熱すると溶けてなくなるので、その空洞に溶けたシルバーを流し込むとキャストができあがります。
これがロストワックスキャスティングです。簡単に説明しましたが、何が言いたいかというと「鋳造品は原型よりも縮む」ということです。複製をとるたびに縮みます。そして、どのくらい縮むかは出たとこ勝負です。だいたい7%と言われていますが、4、5%で済むこともあれば10%くらい縮むこともあります。
単純な形の石を使う場合はさほど問題になりませんが、こんなにピッチリと涙型の石がぐるりと隣り合う場合、石枠が狙った大きさにならないとキツくてはまらなかったり、逆にガバガバになったりします。
石は機械でなく手摺りです。ので、個体差もあります。
見栄えを保てる丁度良い石枠の大きさになるまで何度も調整し、原型監修が終わっているというのに大畠さんには何度も微調整をお願いしてしまいました。
あまり送りたくない、申し訳ない指示書 |
何回も試したあげくの末期的指示書 |
構造もいじりまくりました。大畠さん本当にごめん |
このような紆余曲折を経て、ようやく発表にたどり着きました。
の、ですが……。
……。
……。
「ゲームのイラストに比べて花が全体的に閉じ気味なのではないか」「花びらのふちが太い気がする」という声が届いてきました。多数の指摘ではなかったのですが、やはり気になりますか……。
じつは花びらが閉じ気味なのは理由があって、大畠さんにも閉じ気味にしてほしいとリクエストしていました。詳細については、今後行われるはずの電撃プレイステーションさんのインタビューで話したいと思っています。
さて、予約受付は始まっています。
悩みました。
工房に相談しました。
上の部分の花びらのパーツはサイズ共通なので、量産のための鋳造がスタートしています。
「気にしなくていいので、後悔しないようにやりましょうよ」
と言ってくれました。
大畠さんに相談しました。
「そういうの、すごく良いと思います。喜んでやりますよ」
と言ってくれました。
なにこの人たち……。
人に恵まれたおかげで泣きながら作ることができた資料 |
そもそも成功するかも不明でしたが、トライ&エラーの蓄積があったおかげと大畠さんの神業のおかげで、まさかの大工事を成功させることができました。
左が改修前、右が改修後です。
https://torchtorch.jp/collection/chloranthy_ring/
3月発売の分は残りわずかとなっています。
サイズによっては4月発売分となりますが、ご了承くださいませ。
長い文章にお付き合いくださいまして、ありがとうございました。
それではまた。